セメント産業の多元的な環境対策
セメント産業は鉄鋼と並んで高エネルギー消費産業である。セメント産業が排出するGHG(地球温暖化ガス)は5〜8%と大きい。これはセメントを製造する為には石灰石を1400度の高温で焼結させるためにキルンと呼ばれる回転窯を1800度にも熱する必要が有る事と、この時石灰石が多量のCO2を放出する事に由来する。セメント1トンを製造すると0.8トンのCO2が排出される。セメント需要は中国、インド等で急激に伸びており2000年には世界で1.5Gt(ギガトン)であったが2020年には4Gtを上回ると推測されている。
IPCCの多元的なCO2低減アプローチによれば、現状のコンクリートのセメント、骨材、水の混合比を最適化する事で20%のセメント使用量を減らす事ができるとしている。IPCCの次の戦略は建築物の設計寿命の延長である。長寿命設計の建築物にする事でセメント使用量の総量を減らす事ができる。IPCCの次なる手はセメント製造プロセスの改善によるものである。1970年のオイルショック時に資源を持たない日本、ドイツのセメント産業は省エネを積極的に進めた結果、従来1トンのセメントを製造するのに5GJ(ギガジュール)の熱量を必要としていたものを2002年には3.1GJまで低減している。日本やドイツの技術を世界の他の国が習って導入すれば世界で40%の省エネが可能となる。特に爆発的に生産量が増えている中国、インドでの省エネが重要である。一般的には大型のセメント工場の方が省エネ効果を出しやすいとされているが、その為に輸送距離が増えると輸送によるCO2排出が増加する問題がある。
効果としては少ないが、代替エネルギー源を熱源に使うアプローチも有る。従来95%は化石燃料を熱源にしているが、古タイヤ、廃プラスチック等を熱源に利用する事が進められている。ブラジルでは森林を伐採して作った木炭を熱源にしているが、森林伐採による環境負荷の方が大きく推奨されない。
日本やドイツではセメント工場が高温処理ができる為にダイオキシンを発生しない安全なゴミ処理施設としての使い方も行われている。これはエネルギー使用量の低減には貢献していないが環境負荷を別の面から低減していると言える。
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