市民運動なしには原発は無くならない。
先日テレビでドイツの反原発運動の話しを見た。ドイツ南部黒い森のシェーナウ(Schoenau=美しい谷)と言う当時人口2500人の町で起きた原発反対運動の話である。主人公はこの町の教師で3〜12歳の5人の子供の母親のウルスラ・スラーデク(Ursla Sladek)さんである。
1986年チェルノブイリ原発事故が発生、放射能はドイツにも届いた。その年のシェーナウの野菜の収穫は放射能汚染の為に全て廃棄された。母達は汚染されていないミルクを求めて遠くまで走り回った。スラーデクさんを中心に10人の親達で「原子力の無い未来を求める親達の会」をつくった。彼らはまず、原子力とは何かから勉強をするために専門家を招いて猛勉強を始めた。その結果、原子力に頼らない社会づくりを目指す。
つぎに原子力発電からの電力を使わなくしようと、節電運動を始め町全体で10%の節電を達成した。すると、電力会社から「営業妨害」だと文句をつけられた。それでは自分達で電力会社を作れば良いと、電力会社作りを計画して住民投票にかけた。結果は54%で賛成多数を得て実行となった。市民から募金を募り電力会社から送電設備を買い取る2億円の資金をやっと集めるが、電力会社は4億円だと言う。
それではと、全国に訴えて資金を募った。その時のキャンペーンのスローガンが「私は厄介者です。(Ich bin ein Stoerfall.)」このフレーズで新聞やTVスポットを流し話題をさらった。写真と実名入りで「私は厄介者です。」と原発廃止を訴えた。資金も集まり1997年にEWSと言う電力会社を立ち上げ、原発に由来しない電力のみで町に電力を供給しはじめた。
翌年1998年にはドイツでは電力の自由化となり、EWSには全ドイツから原子力に由来しない電力を買いたいとの申し込みが殺到する。2012年現在契約者数は13万世帯になっている。電気料金は他の電力業者より10%高いが、電気料金のうち5%は省エネ技術や、再生可能エネルギーの開発の為に出資されている。スラーデクさん達は2011年度のゴールドマン環境大賞を受賞している。
2011年3月、メルケル首相はそれまで原発の稼働年数を延長する事に決めていた方針を撤回し、2022年までに全原発の停止を決定した。これは福島原発の事故を受けて全ドイツに数10万人の原発反対のデモが起こり、直後のバーデンヴュルテンベルグ州(シェーナウがある州)の地方選で与党のキリスト教民主同盟(CDU)が大敗したのを見て取った処置である。大飯原発の再稼働に反対するデモが報道されたが、これから日本も反原発運動が広まって来るのだろう。ドイツより26年遅れたがこれから始まる予感を覚えた。
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