月いち!雑誌批評:朝日批判加速の危険=山田健太
毎日新聞 2014年09月22日 東京朝刊より、
今年、集団的自衛権容認の閣議決定など有事対応をめぐる論戦が雑誌で繰り広げられてきた。それが一連の朝日新聞の問題を契機に8月に一変した。慰安婦をめぐる歴史認識や対東アジア外交、米軍基地建設に関し、政府方針を後押しする言説に報道界全体が覆われつつある。従来、韓国たたきと慰安婦問題追及の中心を担ってきた週刊誌群は、口を極めて朝日批判を加速させている。ジャーナリストの池上彰さんの連載を朝日新聞が見送ろうとした問題をスクープした「週刊新潮」は、9月11日号ほかで大特集を組み続けている。9月4日号で「朝日新聞『売国のDNA』」を見出しに取った「週刊文春」もトップ記事が毎号続く。
朝日新聞が両誌の一部の広告掲載を拒否したが、この問題は表現の自由を侵害するものとしてこれまで裁判でも争われてきた重大テーマだ。ただ今回、特定の対象を「売国奴」「非国民」と決めつけた表現は、批判者排除の論理そのもので、掲載の是非以前にメディアが使用を自制すべきであろう。
少しさかのぼると、「フライデー」2月21日号「安倍自民の『国民締め付けと教育』が始まる」や「週刊現代」2月15日号「誰かが止めないと、安倍総理は戦争を始めるわよ」、「週刊プレイボーイ」1月13日号「自民党が次にゴリ押しする『恐怖のトンデモ法案』大全」など、政府方針に批判的な記事も少なくなかった。「週刊ダイヤモンド」も6月21日号で「自衛隊と軍事ビジネスの秘密」を組み、軍需産業の実態と将来像を示している。以前から経済界は、集団的自衛権の容認や武器輸出三原則の撤廃を求めてきたが、背景にビジネス拡大の契機としたい思惑があることがわかる。
月刊誌にも「朝日新聞」を表紙タイトルにする雑誌が相次ぎ、有事論争は片隅に追いやられている。「週刊現代」も「朝日新聞の罪」を続けて特集している。批判の対象が入れ替わったことで、外交・防衛上の転換期にある日本で言論の多様性が失われかねない状況が生まれている。「週刊文春」の池上彰さんのコラム「罪なき者、石を投げよ」(9月25日号)は、批判に便乗する言論報道機関の態度を厳しく戒めている。騒動の渦中にあり謝罪会見のきっかけともなった本人の言葉だけに重く受け止めてほしい。=専修大教授・言論法 |