ダンテの森    
09 Oct 2014 11:36:40 am
気候変動は真の脅威
気候変動は国民の脅威 ――広島以外でも続く環境災害
毎日新聞2014年10月8日夕刊 加藤三郎さんの寄稿から

 今年の夏は、豪雨による洪水や土砂崩れが猛威を振るい、多くの大切な命と平穏な暮らしが一夜にして奪い去られた。広島での災害が余りにも強烈な印象を与えたのでつい今年だけが特異な夏だと思いがちだが、昨年も、京都市、秋田県仙北市、伊豆大島などで同様の災害が起こり、埼玉県熊谷市では大規模な竜巻被害が発生した。

 このところ、夏場に限らず日本列島のどこかで異常気象現象が発生し、国民の生命と暮らしが翻弄されるようになった。これは日本だけの問題では無い。世界のニュースを注視すれば、先進国、途上国を問わず生起している環境災害であることがわかる。今年の米カリフォルニアにおける大干ばつや猛烈な山火事の発生。昨年11月にフィリピンのレイテ島などを襲い、破壊の限りを尽くした台風30号の傷跡は今も生々しく思い出される。
 気象学者が、地球温暖化が進めば起こり得ると警告していた事象が、学者が遠慮がちに提示していたより激烈な力を持って、私たちの目の前に現れるようになった。恐怖を感じる人も多かろう。地球大気の気温が急速に上昇し、それに伴い海水温(深海も含めて)も上昇して、海洋自体が湯たんぽ状態になり、蒸発水量が増える事で、かつて経験した事の無いような豪雨になったり、スーパー台風になったりして、人間社会に襲い来るのである。先日の台風18号もその一つだ。

 ところで安倍晋三首相は、集団的自衛権の行使容認に関しては、繰り返し「命を守り、平和な暮らしを守るのが、総理大臣である私の責任」と発言し、現実に起こり得るあらゆる事態に、万全の備えをしていくと強調している。確かに近年の東南アジアにおける軍事的緊張の高まりを見れば、国を預かる首相としてあらゆる事態を想定し、対応しようとするのは当然であろう。しかし、首相にとって国民の命と平和な暮らしを守る責任の対象は軍事的な衝突だけなのだろうか。そんな思いが、私には日増に強くなってきている。
 今年2月、ケリー米国務長官は、大雨・洪水に苦しめられているインドネシアの首都ジャカルタで、気候変動は「大量破壊兵器」の域に達した旨発言した。英国の首脳は気候変動の脅威は今や安全保障の問題となったと捉え、その観点から警告を発している。国民の生命や暮らしを脅かすものは、ミサイルや潜水艦だけでなく、ますます強力になる台風、ハリケーン、ゲリラ豪雨、竜巻などの気候変動も同様だとの認識が、世界の政治主導者の間で共有されつつあるのである。

 安倍政権が発足して間もなく2年。この間、成長戦略や原子力の再稼働にはことのほか熱心だが、気候変動政策には見るべきものがない。先般の所信表明演説を見ても、私には首相がこの問題に関心を持っているとは感じられない。
 ミサイルも、潜水艦も、確かに怖い。しかし、突然襲ってくるゲリラ豪雨やスーパー台風によって、現実に国民の命と平和な暮らしが失われている。気候変動の専門家が指摘しているのは、こうした現象はまだ序の口であり、これから先も気温の上昇に伴うさまざまな危険が予想されると警告している。それなのに、安倍政権は温室効果ガス削減のまともな目標を決めておらず、米政権でさえ実施しようとしている排出規制措置の検討すらせず、産業界の自主行動に任せる姿勢を取っているのは心配だ。
 これで国民の命と暮らしが守れるのか、疑問に感じざるを得ない。9月23日、米ニューヨークで国連機構サミットが開催された。米国のオバマ大統領は、大量排出国である米中には特別な責任があるとした上で、2020年以降の枠組み作りに意欲を見せたが、安倍首相は、途上国支援は約束したものの肝心の国内の排出削減には触れずじまいだった。第一次安倍内閣で温暖化対策にも力を入れていたことを思い起こし、この重要課題に一刻も早く取り組んでほしいものである。

加藤三郎(かとう・さぶろう)さん、環境文明21共同代表の略歴:
昭和14年、東京生まれ。昭和39年東大工学部卒。昭和41年東大修士課程修了。
昭和41年厚生省に入省。昭和46年環境庁大気規制課長などを経て平成元年環境庁地球環境部長などを歴任。平成5年退官後、「環境文明研究所」を設立。同年9月「NPO法人 環境文明21」共同代表。
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