IPCC統合報告書発表に見る、日本の報道各社の姿勢
ブログ管理人
一昨日、11月3日の朝刊各紙はIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の統合報告書発表を受け一斉に報道した。新聞記事は、取材記者の記事を読んだ編集部デスクの他、整理部による「みだし」が付けられるが、この「みだし」には新聞社の姿勢が良く表れている。次にその見出しを紹介する。
読売 11/3 気温上昇２度未満、達成に厳しい予測…ＩＰＣＣ
朝日 11/3 気温上昇２℃未満に「道筋」 温室ガス「２０５０年には半分に」 ＩＰＣＣ報告書
朝日 11/3 異常気象、残るリスク 「脱・化石燃料」は必須 ＩＰＣＣ報告（パウチャリ氏記者会見）
毎日 11/3 ＩＰＣＣ:報告書 対策遅れコスト１．４倍 「多様な道筋」課題も山積
毎日 11/3 ＩＰＣＣ報告書:温暖化、３０年で許容上限 迅速対応迫る（解説記事）
日経 11/3 「温暖化ガス排出ゼロに」ＩＰＣＣ報告書 今世紀末までの達成訴え
日経 11/3 進まぬ交渉に警鐘 気候変動パネル報告書 排出削減目標の水準甘く（解説記事）
産経 11/3 温室効果ガス排出、今世紀末「ゼロにせよ」 国連報告書、人類に許されたＣＯ２「残り１兆トン」
東京 11/3 国連報告書 温室ガス 今世紀末ゼロに（共同の配信を政治面に）
読売、日経、産経、東京はいずれも共同通信の配信をそのまま載せたようで見出しのトップが全て「温暖化ガス今世紀末ゼロに」と似通っている。地方紙の東京新聞が共同の配信を載せるのは理解できるが、読売、日経、産経が欧州駐在記者からの記事では無いところは、この問題への関心度の低さが表れている。
朝日、毎日は直接取材でそれぞれ視点が異なった特徴ある記事となっている。
毎日の記事は、悲観的過ぎてもう何をしても間に合わないと言う印象をうけてしまう。最も適切と思えるのは朝日で、パウチャリIPCC議長の記者会見の模様を臨場感を持って伝えているので紹介する。また、朝日によるIPCC統合報告書の要旨を続けた。
朝日新聞11月3日朝刊
原文URL: http://digital.asahi.com/articles/DA3S11436040.html?iref=comkiji_txt_end_s_kjid_DA3S11436040
最新の科学的成果をもとに地球温暖化に関する世界的な報告書が完成した。異常気象や海面上昇、食料や水不足、生物種の絶滅……。今後予測される手に負えないリスクを甘んじて受け入れるのか、たとえ難しくても回避するための行動を取るのか。温暖化対策の新しい枠組みづくりを進める国際社会に問いかけている。▼１面参照
「科学は確固たる基礎を築いた。バトンは世界の指導者に渡される」。コペンハーゲンで開かれた記者会見で、気候変動に関する政府間パネル（ＩＰＣＣ）のパチャウリ議長は述べた。
今回、分野を横断して見えてきたのは、今後数十年の温室効果ガスの削減策次第で、今世紀後半以降に人間社会に降りかかるリスクに大きな差が出てくるということだ。
このまま排出増が続くようでは世界経済や生物多様性への影響、さらには海面水位が大きく上昇するような特異な現象が発生するリスクは高くなってしまう。
一方、「２度目標」を達成できてもリスクは残る。特に熱波や大雨などの異常気象のリスクは高くなるという。報告書はもう一つの温暖化対策として適応策を重視した。都市を冷やす緑化や災害に強い作物づくりなどのリスク軽減策だ。
報告書のとりまとめの途中、「最悪の展開」とささやかれるほど合意が危ぶまれた場面もあった。産油国の一部が主に化石燃料を燃やした二酸化炭素（ＣＯ２）排出量が１９５０年ごろから急増しているグラフを報告書から削除するようかみついたのだ。表向きは、ＣＯ２以外の温室効果ガスが評価されていないという理由だった。しかし執筆した科学者たちが意図したのは、今世紀末のリスクを下げるためには、化石燃料由来のＣＯ２削減が欠かせないという事実。「妥協したら存在意義がなくなる」と抵抗し、最終日の土壇場になって産油国は主張を撤回したという。
会見に駆けつけた国連の潘基文（パンギムン）事務総長は、国際社会が来年末の合意を目指す京都議定書に続く新しい温暖化対策の枠組み論議について胸を張った。「この報告書が多大な影響を与えるだろう。合意できることに自信を持っている」
（コペンハーゲン＝須藤大輔）
■ＩＰＣＣ統合報告書（要旨）
【観測された変化】温暖化は疑う余地がない。１８８０年から２０１２年までに世界の平均気温は０．８５度暖かくなっている。
【温暖化の原因】人間によるこれまでの排出で、二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素の大気中濃度は、少なくとも過去８０万年で前例のない高い水準に達している。人間の影響は２０世紀半ば以降に観測された温暖化の主な原因であった可能性が極めて高い。
【極端現象】１９５０年ころから極端な低温の減少、極端な高温の増加、極端な海面水位の上昇を含む極端な気象や気候の変化を観測。いくつかは人間の影響と関連している。
【予測される変化】評価したすべての排出シナリオで、今世紀中は気温が上昇すると予測されている。今世紀末の気温上昇は０．３〜４．８度になる可能性が高い。今世紀末に海面水位が２６〜８２センチ上昇する可能性が高い。
【長期的な変化】人間による温室効果ガスの排出を止めても、関連する影響は何世紀にもわたって続くだろう。温暖化の規模が大きくなれば、急激で不可逆的な変化が起こるリスクは大きくなる。
【リスクの軽減】現行を上回る追加的な削減策が取られなければ今世紀末までの温暖化は、深刻で広範にわたる不可逆的な世界規模の影響をもたらすリスクが「高い」レベルから「非常に高い」レベルに達するだろう。
【適応策の特徴】適応策はリスクを減らすことができるが、温暖化の程度がより大きく、速度がより速い場合には有効性に限界がある。
【削減策の特徴】気温の上昇を２度未満に抑制する可能性の高い削減の道筋は複数ある。このシナリオでは２０５０年までに温室効果ガスの排出を２０１０年比で、４０〜７０％減らし、今世紀末には排出をゼロかそれ以下にすることが必要だ。
【削減策】すべての主要分野で、削減策は存在する。費用対効果の高い削減策は、エネルギーの消費削減や効率改善、エネルギー供給の脱炭素化、森林などの吸収源の強化などを組み合わせた統合的な取り組みによる。
各紙が省いている最も重要な論点
日本の新聞を含めた全てのメディアで共通して報道を省いている重要なポイントは、�‘�本は京都議定書第二約束期間から離脱していること。��2009年の鳩山首相が国連で行って大喝采を受けた2020年までに1990年比で25%のCO2削減と言う目標を反故にした後、2005年比で8%減と言う超消極的目標1990年比にすると3%増と言う増加容認目標しか出していないこと。��2010年に日本政府の主導で議決された名古屋議定書(生物多様性保護締約)への批准を見送ったこと。など安倍政権がことごとく環境関連の国際約束に後ろ向きの姿勢を見せていることである。
また、各紙はIPCCの報告書にはCO2削減策のトップに「エネルギーの消費削減や効率改善」を掲げているのに関わらず、ことさら最も実現困難な炭酸ガス貯留(CCS)などを対策に挙げ、報告書にはどこにもない原子力発電をその中に入れるなどしており、全体的に恣意的なものを感じる。 |
日本のメディアの姿勢
