長い時間のスパンでサイクルを繰り返す自然
世の中に存在する物質は全て、濃縮―拡散―濃縮―拡散の流れを繰り返している。それが、水であれ、鉄であれ、木であれ、プラスティックであれ同じである。ぼくたちが手に触れる事ができるのは濃縮している段階である。水は濃縮された状態で手に触れる事ができるが、拡散すると水素と酸素になって手で触れることはできなくなるし、目でも見えない。
金属は何億・何千万年と言う悠久の時を掛けて濃縮されて金や鉄になっている。木は何百年掛けて炭素と水素を太陽光の力をもらって濃縮して木を作る。木の分子構造はものすごく複雑で、写真(上)の白い色の部分でセルロースとへミセルロースで出来た籠状のものである。この分子をつないでいる接着剤の働きをしているのがオレンジ色のリグニンである。リグニンがたくさんの籠をしっかりつないで100メートルもの高さの木を作っている。この構造は伐採された後も変わらず、法隆寺の心柱のように1200年も塔を支えている。
人間は木を使いやすい形に切って加工して家や家具を作る。そして使わなくなると燃やしてしまう。また紙として使う場合はセルロースだけを取り出して紙にして、使い終わるとそれも燃やしてしまう。焼かれた木材や紙は炭素と水素に拡散して大気の中に溶け込む。
木のサイクルは自然界では数100年単位であるが、人間が使うと紙なら数年、材木としてでも数十年のサイクルで有る。この時間の流れの違いに人類はこれまで思いをはせる事が無かった。金属は数億年、化石燃料は数百万年と言う悠久の時間を掛けて濃縮されたものである。それを人間は数年で拡散させてしまっている。ここに持続可能では無くなる原因がある。人間は余りにもせっかちで有る。最近の企業は1四半期毎の決算の数字が重要で、もう人間の生活サイクルよりも短いサイクルで経済活動が動いており、持続可能な社会からますます遠ざかる傾向にある。
三重大学の舩岡正光教授は、リグニンを分離する技術を開発し、リグニンとセルロースを混ぜて常温で固まる木材プラスティック(写真下)を開発した。この木材プラスティックは分解して再び別の形に成形する事ができ、木材を長期間使い続ける事ができ、少しでもサイクルを延ばす事ができる。
未来館のホームページ
http://www.miraikan.jst.go.jp/sp/deep_science/topics/18/01.html
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