安全性に問題が有る為に現存するのは世界で5台ほど
超高層ビルに設置された最新のエレベータでは、降下する時のかごの重さから発生する回転力で発電する回生制動で省エネをしているが、エレベータは運転と停止の連続なので、機械的、電気的なエネルギーロスは大変大きい。殆ど電力を使わないエレベータが有る、と言うか昔は有った。
ぼくがまだシーメンスの研修生だった1970年に、ベルリンの事務所に、パータノスタ(Patanosta)と呼ばれる回転式の昇降機が有り、実際に使われていた。これはエレベータが2本並んで有り、中をたて長のわっか状にチェーンがつながって、ぐるぐる回っており、そのチェーンに人が乗るかごがたくさん付いて居る。各階には2つの乗り場が常に開いておりドアは無く、左は降りるかご、右は昇るかごがつぎつぎとつながって動いている。下の階に行きたい人は左の乗り場で上から下りてくるかごの床が乗り場の床と同じ高さになった時に、ポンと飛び乗る。上に行きたい人は右のかごに同じようにタイミングを見計らって乗る。待ち時間は殆どゼロである。速度は大変遅く階段を使うのと余り変わらない早さなので、急ぎの時は階段を使って駆け上がった方がよほど早い。
輪になったチェーンにかごが付いたものをぐるぐる回すだけなので、殆ど電力の消費は無く、究極の省エネエレベータである。しかし、安全性の問題が有る為現在は殆ど無くなっており、世界に現存するのは5台ほどとの事である。2012年に転倒した81歳の人が安全装置の故障の為に緊急停止しなかった、かごと床の間に挟まれて死亡すると言う痛ましい事故が発生している。
かごの床面と乗り場の床面が一定以上離れると、光検知センサーが動作し、間に人や物を検出すると緊急停止する。ぼくも何度か止まったかごで待たされた事があるが、止まった途端にかごに乗っている人からブーイングの声が出される。たいてい止まる原因は急いでいる人が、すでに段差が有るパータノスタに構わず飛び乗った為に安全装置が検知して緊急停止する。だから、ブーイングなのだ。
2006年に日立エレベータが最新のテクノロジーと組み合わせて安全性を高めたパータノスタを開発すると発表したが、その後完成したとのニュースを見ていないが、究極の低エネルギーで動く昇降機なので是非、開発を進めてもらいたい。
英語版ウィキペディアのURL:
http://en.wikipedia.org/wiki/Paternoster
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