何億年も自然が営んできた生き残りの戦略を学ぶ
何処までも続く緑の牧草地や麦畑、梅雨時の整然と田植えをされた青々とした水田風景を見ると、豊かな大地の恵みに感謝と言う気持ちが湧く気がする。しかし、自然から学ぶ学問「バイオミミクリ―」の研究者たち、バイオミミックス達から見ると、何とも不自然で、グロテスクで危なっかしい光景に映るらしい。
本来原野には何百種もの植物が混在して生きている。それらは殆ど多年生で、光合成を行って種子を作っている。マメ科やイネ科の種子には炭水化物やタンパク質など動物が必要としているものが集められている。これらの植物は決してデタラメに生えているわけでは無く、厳しいルールに従っている。そこには何億年もの間に経験した、何十年サイクル、何百年サイクルの気候の大きな変化にも耐える事のできる戦略が用意してあると言う。
これらの多年生の植物のあるものは地上すれすれに、あるものはその上数センチに、さらにその上、中には数メートルの高さに達するものもある。これらはそれぞれの高さで太陽光を受けて光合成を行う。地中も又同じである。根の浅い植物から何十メートルもの深い根が層をなしている。これらの根の活動のお陰で、多種のバクテリアや昆虫が土壌をコロイド状にして空気を何メートルも地下まで運び、水は何キロもの地下まで浸透する事ができ、大量の水を保存する事ができる。このような自然原野は少々の長期的な気象変化にもびくともしない力を備えている。何年も降雨が無いと深い地中まで根を貼る植物が元気になり、水分を地表近くまで運び全てが枯れることは無い。大量の雨が降っても全ての種子が流される事は無い。それは長い歴史の中で学習して作った戦略なのだ。
人類は数万年前に農耕を始めた。大草原を耕す事で、多年生の根を絶やして人間の生活に都合の良い一年生の穀類を植えて来た。細かく耕された表面の土は、雨が降ると流される。その下の層は固く踏み固められているので水を浸透させず、地下にまで雨水が届く事は無い。何万年の内に農耕地はやせ衰えた。産業革命で化学肥料を合成することを知った人類は、この痩せた土地に窒素酸化物を大量に混ぜて穀物と牧草だけを育てた。現在の農業は、穀物や、牧草から人類が得ているカロリー以上の化石燃料を使ってやっと成り立っている。つまり現在の農業は持続可能性はない。
原野の持つ、生物多様性から学んで多年生の食用となる植物を混作栽培することが90億人の食糧問題を解決できる、唯一の持続可能性が有る農業であると気づき、やっと研究が始まっている。
同質のものを大量に耕作してきた人類は、同質の人間も大量に作って来たことが持続可能ではない社会を作ってきたのでは無かったのかと、ふと思った。
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