農学者、福岡正信の「何もしない」を追求した自然農法は次世代の農法
農業と言うとグリーンなイメージで環境負荷が少ないのでは無いかと思われているがそうでは無い。まず農業分野から排出される地球温暖化ガス(CO2換算)は年間54億トンで総排出量300億トンの18%で建築物、交通に次いで第三位である。現代農業は大量の窒素肥料を使って成り立っているが、窒素肥料1トンを製造するのにはほぼ同量の石油を使う。そして土壌に撒かれた一酸化窒素(N2O)の一部は大気中に放出されるが、このガスの温室効果はCO2の310倍である。また、水田は土壌表面に水を貼ることから土壌中で酸欠状態となり、メタンガス(CH4)が発生する。畜産農家では家畜の糞尿やゲップからも多くのメタンガスが大気中に放出されるが、メタンの温室効果はCO2の25倍である。
その上、世界の淡水の70%は農業が消費しており、淡水の汲み上げ、輸送、灌漑にも多量のエネルギーが消費されており、農業は大変地球環境負荷の大きな産業である。
さらに、生産された農作物のほぼ半数は消費される事無く廃棄されており、巨額の無駄を生じている。食料品の廃棄の為の焼却や埋め立てにも多量のエネルギーが消費されているが、これは農業分野の環境負荷としては算入されていない。
愛媛県出身の農学者、福岡 正信(ふくおか まさのぶ、1913年2月2日 - 2008年8月16日)、自然農法の創始者の存在を知った。福岡が開発した米麦連続不耕起直播は、稲を刈る前にクローバーの種を蒔き、裸麦の種の粘土団子を蒔き、稲を刈ったら稲わらを振りまく。麦を刈る前に稲籾の粘土団子を蒔き、麦を刈ったら麦わらを振りまくという栽培技術である。これは、できるだけ「何もしない」と言う事を追求した農法で、異なる植物の持つ特徴を生かして土壌を疲弊させないので、アジアやアフリカなど国家予算をつけてこの農法を学ぶ国もあるが日本では全くのマイナーである。1988年にアジアのノーベル賞と言われるマグサイサイ賞を授与されている。(因みに今度「ファクター5」を出版してくれる明石書店の石井社長は2008年にマグサイサイ賞を授賞されている。)
日本の農業では、多くの窒素肥料、農薬、農機具を使うがそれらは全て農協(JA)が一手に販売をしている。出来た作物もJAが買い取るシステムになっており、農家はJA無しにはやって行けない。自然農法のような農法が広まると一番困るのはJAであろうからJAが推進するはずは無い。自然農法ではGDPの増加には結びつかないので、農水省も力が入るはずがない。
福岡正信さんの御存命中には脚光を浴びることが無かったが、ぼくたちが目指す持続可能社会には欠かせない正にバイオミミクリ―の考え方だと思う。後継者の方々のご活躍を応援したい。
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