世界に、環境問題こそが真のアジェンダであると示した1988年の名演説
時代と言う舞台装置がぐるりと回って変わる時がある。その年を境目に世界が大きく変わった、1988年(平成元年)はそんな年であった。1988年6月にモスクワでゴルバチョフ書記長とレーガン大統領が中規模弾道ミサイルの削減を行うINF条約に署名をした。これを機に東西の緊張は一気に緩和され東西冷戦構造の終焉を迎え、人類は核の脅威から解放された。この後、1989年ベルリンの壁の崩壊に続き、1991年にはソ連邦が消滅することになった。
1988年9月27日に国連総会において、ソ連のシュワルナゼ外相は歴史に残る「地球環境演説」を行っている。以下はその一部である。
「たぶん現在は、われわれの環境に対する脅威が確実に迫っている、初めての時であろう。この第二の戦線は、核と宇宙における脅威と同じ程度に、その緊急性を高めている。現在は、何らかの地球レベルのコントロールなしには、平和的・創造的といわれている人類の活動が、地上のすべての生活の基礎に対する地球次元での攻撃に転化してしまうことに、明確に気がついた初めての時であろう。現在は、通常の軍事手段を用いた防衛を基本とする国レベルや世界レベルの安全保障という伝統的な考え方が、いまや完全に過去のものとなり、早急にあらためられなくてはならない、という主張のなんたるかを、明確に理解するようになったはじめての時であろう。環境カタストロフの脅威という前にあっては、二極化したイデオロギー的世界という対立図式は、却下される。生命圏(Biosphere)には、政治ブロック・同盟・体制という区切りなど一切存在しない。すべての人が、同じ気象体系を共有しており、誰一人として環境防衛という自分だけの孤立した地位に立てるわけではない。人口の第二の自然、つまり技術圏(Technosphere)は、きわめて脆弱なものであることがはっきりした。(これは1986年に起きたチェルノブイリを指している――ブログ管理人)多くの場合、その破綻はたちまちのうちに国際的で地球レベルのものとなる……」(米本昌平著「地球環境とは何か」から引用)
この演説ほど明確に、東西冷戦構造を終結して世界を挙げて地球環境問題に取り組むべき時が来た事を述べているものは無い。1945年から40年以上にわたって続いた東西冷戦に代わって国際政治が取り組むべきは環境問題であると訴えている。しかし、この演説から25年間、現実世界ではその後も通常の軍事手段を用いた戦争が続いた。産軍複合体が消費する巨額の軍事費が世界の経済をけん引すると言う図式が続いたが、それが持続可能では無い事にやっと気づいた米国がオバマ政権になり、方向転換がはじまった。
しかし、安倍内閣は日本独自の冷戦構造を演出し、環境問題からことさら目をそらし、昔のカレンダーに掛け替えようとしている。原発建て替え等を持ち出しているのもそのあらわれである。核軍備には原発は必要な生産設備であるからだ。米国が近い将来中国を脅威と見なさなくなった時には、日本は核の傘から放り出される。それまでに核軍備と強力な産軍複合体を日本に作っておきたいと考えているのだろう。つまり、1988年に捨てられた戦略を拾い上げて復活させようとしている。
1988年を時代の転換点とするなら、この年を環境元年とすれば今年は環境25年で、平成と同じで覚えやすい。実りの少なかった環境25年間であったが、ちょうど四半世紀を過ぎて、やっと米国と中国が陣列に加わり本格的な態勢が整ったといえよう。今は斜めを向いているカナダ、オーストラリア、ロシアはいずれ陣列に加わる事になると思う。最後まで残るのは北朝鮮と日本ということにならなければ良いが。 |